私が、この寺に入った頃からのお付き合いで、仕事がらみで何でも手伝ってくれるTさんが, 去年、キャタピラー付きの大型草刈機に惹かれて、下肢部の、骨を二箇所折りました。今は、元気で働いております。お年寄りの骨折ならいざ知らず 若い人の骨折は、複雑骨折でもない限り、接続 部分は以前より頑丈になって完治すると、何かの本か、聞き捨てか、そのように認識しておりました。元気そうに働いているTさんの様子を嬉しく 見ておりました。
正月から暖かく、風もなく、申し分のない日和続きも一変。20日過ぎから猛烈に寒い朝です。夕方になると、明日の朝の一層の寒さを予感させるような底冷えの風の吹く中、Tさんが、近くの現場からやってきて、お風呂に誘いました。 まだ四時ごろです。私は庭仕事の途中ですから、温まって、そんなに寒くもなかったのですが、Tさんは震えんばかりに寒そうです。フロに向かう途中の車の中での会話。
「こういう寒い日は、鉄が冷えるんです。鉄の冷えが身体中に走り回って、どうしょうもなく寒いんです。」
「鉄?」
「そうです。鉄です。」
「何の鉄?」
「骨折の時、足に埋め込んだ金属の事ですよ。。」
「ふう~ん」
それより他に出る言葉が見つからない。寒い日は埋め込んだ金属が身体を冷やしてゆく。手術のお陰で歩けるようになったし、仕事にも復帰した。けれども、完治とういう訳では無い。そう言えば、最近私も遂に入れ歯となって入れたり外したり不自由なことである。この入れ歯箇所では、食べた物の味が感じられない。金属ではないが異物である。治療のお陰で何とか食事を頂いてはいるが確かにいままでとは違う。美味しくない。 そんな自分自身の体験から、Tさんの不自由に妙 に納得したものである。